1978年、ティム・デ・パラヴィチーニは自らが主宰するEAR社を英国に設立しました。
そのEARブランドの顔となるべく、満を持して発表されたプロフェッショナル仕様 100Wモノブロック パワーアンプが「EAR 509」です。
この業務用パワーアンプは、世界中のプロ録音スタジオやプロエンジニア、更にはオーディオファイル達の間でもビッグヒットとなり、瞬く間にEAR/パラヴィチーニの名前を世に広めることとなりました。
パラヴィチーニ自身が「最も愛しい作品」と語るほどに、彼の情熱と天才的な感性と技巧が結晶した製品で、発表以来、Mk.I、Mk.II とリファインされながら、実に30年以上に渡ってEARエンスージアスト達から羨望の眼差しで見続けられるロングセラーモデルです。
これは、一般的にも語られるように、音や音楽に関しては必ずしも新しいものが良いとは限らないという言葉の証左となるものでしょう。
EAR製品のトレードマークとも言えるクロムパネルを奢りながらも、プロ用機器としての無駄を排除したストイックな外観が出てくる音の凄みを予感させます。
そしてパラヴィチーニ/EARサウンドの源泉となる出力トランスと真空管をカップリングしたパラヴィチーニオリジナルの特別回路「バランス・ブリッジ・モード」をここに採用しました。
これはアノードとカソードをそれぞれ2重巻きの出力トランスの捲線へ50/50の比率でキャパシターと併せてクロスカップリングし、常にスイッチオン側のデバイスが、反対側のスイッチオフデバイスに作用するようにして、アノードとカソードが同一のインピーダンスで反応しあうという斬新なデザインになっています。
また、パラヴィチーニのトレードマークでもあるネガティブフィードバックを掛けないという大胆な回路設計により、パワーバンドは 9Hz - 85KHz (-3dB)までに及び、同時に真空管の音は決して「レトロ」ではなく、現代的な素晴らしい音楽を再生する能力に長けている事を実証する事にもなりました。
伝統的な真空管アンプの回路デザインでは、トランスの能力が適切でない限り、ハイフリークエンシー時におけるプッシュプル動作が追従しきれなくなり、また同時にハイフリークエンシー時には出力トランスからインプットへ掛けられたネガティブフィードバックが、出力トランスのディレイ(遅れ)により、ややポジティブ側へ振れてしまう事が多々あります。
これによりアウトプットダンピングファクターや歪率が悪化し、クリアーな高域を再生することが困難になってしまうのです。
「EAR 509 II」はパラヴィチーニがデザインした”機械独自の音を持たない” 、まさにプロフェッショナル仕様のパワーアンプです。
多くの真空管アンプが先に述べた構造的な理由から高域が伸びないために「温かい/ウォームな」という言葉で表現されますが、「EAR 509 II」はその言葉の範疇に収まらない、特筆すべきクリアーさと高い透明度、そしてリアルなベースとナチュラルなトップを持ち、音楽のディテールと生命感を力強く伝えてくれることでしょう。
特に非常にシビアなイコライジングや機材調整を要求される「ハーフスピードマスタリング」テクニックを用いて多くの高音質アナログ盤を世に送り出している「Mobile Fidelity Sound Lab / モービル・フィデリテイー」には、パラヴィチーニがカスタムビルドしたStuder のテープマシンやEAR プロ機器である「EAR 825Q」パラメトリックイコライザー、また「EAR 660」コンプレッサー等々が導入されています。
その中でも、非常に大きな役割を担っているマスターレコードにグルーブを刻むカッテイングマシンのカッティングヘッドを駆動させるためのドライブアンプに、この「EAR 509 II」をベースとして生まれた姉妹機である「EAR 549」200W モノブロックが使用され、「モービル・フィデリティー」の躍動感と生命感に溢れた高音質の創造に貢献しています。
これは「EAR 509 II」のナチュラルの極致とも言える音響特性が、マスタリングを行うプロの現場でいかに重宝され、また重要であるかを如実に物語るものです。
プロスタジオの現場で培われたパラヴィチーニの最先端の技術と感性が結晶した「EAR 509 II」。全てのパラヴィチーニ/EAR製品の起源は、まさにここにあるのです。
※使用真空管に関しまして、正しくは出力管はPL519となります。
雑誌、カタログその他表記に間違いがある場合がございますのでご留意ください。
パラヴィチーニのデビュー作でもあるEAR509パワーアンプに1978年当時、テレビ管のみに使用されていたPL519をオーディオ出力管として世界で初めて採用したことで、オーディオ界に衝撃を与えました。